厚揚げ娘
2009 / 11 / 01 ( Sun ) コンビニでの話を、ひとつふたつ。
今日の話だ。今日は本当はバイトではなかったのだが、先々週あたり、いろいろとシフトを変わってもらったので、そのお返し、ということで、いろいろと変わってあげたのだ。コンビニのバイトは義理と人情の世界で御座います。ヤクザばかりが、義理人情ではありません。ヤクザだからって、そんなに威張らないで下さい。(ところで、ヤクザっぽい人を見ると、「指きりげんまんしようよ!」と無邪気に言いたくなるのは、僕の性格が悪いからなのだろうか?) そんな感じで、義理と人情に溢れた僕は、バイトを頑張っていた。大体に於いて、コンビニはバイト生二人で回すものなのだが、義理人情に溢れた僕のパートナーは、すこぶる真面目な女の子であった。彼女もまた、義理人情に溢れた人であった。眼光鋭いその眼差しは、常に店中に散りばめられていたのだ。 義理人情、なんて言ってはみたが、実際のところ、コンビニのバイトなんてのは、実に暇な時間が多く、適当にやっていれば良いのである。客がいないときは、ぶらぶら店中を徘徊すれば良いし、煙草が吸いたくなったら、控え室でぶらぶら煙草を吸えば良いし、お腹が空いたら、おでんでも適当に見繕ってぶらぶら食べれば良いのである。 しかし、この義理人情の女の子、前世によほど悪い因縁でもあるのだろうか、凄まじく真面目な性格で、そんなに真面目だったら体を壊しますよ、と言いたくなるほど、真面目なのである。 具体的にどのように真面目かと言うと、客がいるときは、もちろん、客がいないときでさえ、レジの前にて兵隊張りの気を付けをし、欲シガリマセン勝ツマデハ、一挙玉砕、人間爆弾、風が吹こが雨降ろが、全く以って動じる気配がないのである。あまりに動かないので、これは、死んでいるんじゃないか知らん?と思って、僕が呼吸を確かめに恐る恐る近づくと、ぶるっと身を翻したかと思うや否や、電光石火のスピードで店中を駆け巡り、パンやらおにぎりやらを綺麗に整え、再び定位置に舞い戻って、銅像の様に固まるのである。 レジの前にて、顔を少し斜め上にあげ、カマキリのように気を付けをしている彼女の姿には、忠犬ハチ公を彷彿させるものがあり、僕は少し胸が締め付けられた。真面目な人は、嫌いではない。 そんな訳だったので、僕も結構今日は真面目に頑張った。彼女までとは云えぬが、休憩もしなかったし、ぶらぶらもしなかった。しっかりやったのである。えへん。 しかし、僕はどうにもこうにも性格が悪いようだ。 僕の働いているコンビニでは、名目上、廃棄を持って帰ってはいけないのだが、実際のところでは、オーナーならびに店長が堂々と廃棄を持って帰っているので、バイト生もやりたい放題で、みんな持って帰っている。しかし、この真面目な女の子はどうであろう。僕は興味を持たずにはいれなかったのだ。 バイトが終わってから、僕は廃棄の商品を、これ見よがしに彼女の前で袋に入れ、持って帰ってやった。わざと、堂々としてやったのだ。彼女は、無表情で、しかし、静かな怒りに満ちた目で、僕の一連の行動を眺めていた。僕は、廃棄をたんまり詰め込んだ袋を抱えて、おほほ、お疲れ様、といやらしく挨拶して、一旦帰った振りをし、トイレに立て篭もり、彼女が帰るのをじっと待った。そして彼女が帰ったのを確かめると、控え室に舞い戻り、監視カメラの録画画像を巻き戻して、僕が帰った後の彼女の行動をチェックしたのだ。決して変態なわけではない。 盗め、盗め、盗め!僕は心の中で連呼した。廃棄を、持って帰れ!その様子が見れたら、どんなに痛快だろうか。もしも彼女が、廃棄をこっそり鞄の中に入れて持ち帰ったら、僕はあらゆる物事を信じず、口元に冷笑を浮かべ、来週、彼女が盗んで帰った商品をわざわざ買いに来てやろう、と思った。性格が、悪い。 しかし、彼女は、持って帰らなかった。監視カメラに映っていたのは、キビキビと帰り支度をし、机の上をテッシュでサッと拭いて、外へ颯爽と飛び出して行く彼女の姿だった。 僕は、正直なところ、少し落胆した。が、ちょっとだけ自分を恥じた。真面目な人は嫌いではない。これは本心だ。 彼女は、その真面目さから、結構今まで辛い経験もあった事だろう。真面目な人は嫌われやすい。柔軟性がないからだ。人間関係は、柔軟な状況判断に依って上手く回転する。規則とは、その柔軟さが逸脱しないための、制限に過ぎないのだ。よほどの前世の因縁か、真面目なことは、今も昔も、損らしい。 しかし、真面目さここまで極まれば、何となくスカッとするものがある。 コンビニのおでんの具材に、厚揚げというものがある。これ、非常に取り扱いが面倒な具材なのだ。脂を熱湯で抜いたり、水で洗ったり、脂を抜いた後、しばらく置いたりしないといけない。さらには、そのかさばる形から、汁の中に入れるときも一苦労で、他の具材を掻き分けて、スペースを作り、そこに陳列しなければならない。挙句の果てに、意外とつるつる滑るので、取り扱うときも、注意しないと、箸の間からつるりと滑り落ちてしまう。非常に面倒な奴だ。手抜きが効かない。決まりきった手順を踏まなければ、美味しくならないのである。全くもって融通が利かない具材なのだ。 しかし、きちんと手抜きなしの手順を踏んだ、厚揚げの味と言えば、非常に美味しいもので、これ、我らがコンビニの誇る人気商品のひとつなのである。 我らが誇る厚揚げ娘、ちょっと融通は利かないけれど、正当に扱ってあげれば、めきめきとその実力を発揮するのである。そういう仕事に将来就ければ良いね、本当に。なんつって、ちょっとキザかしら? 馬鹿にするなら、馬鹿にするがよい。彼女は、美しいのだ。 とか言っちゃって、太宰の真似事で上手いこと締めようとするんだから、僕は、本当に性格が悪い。 |
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